駒鳥文庫が生まれる前のお話。丁稚していた古本屋を退職し、開業準備に燃えていた頃、興奮する心の片隅に、ちょっぴり心細い自分がいました。
これからはひとりでやっていかなあかん。
今まではいち古本屋の従業員。尊敬するボスがいて、頼りになる兄貴分の先輩がいて、ラブリーな事務員さんに愉快なパートさん……毎日にぎやかに楽しく働いてきたのに、これからはずっとひとりっきり。自由を得るには孤独との名の犠牲が必要。わかってはいたものの、一人っきりって、やはりどこか一抹の不安が。
そうだ、相棒を迎え入れよう!
ということで、我が家に猫がやってきました。しかもこの猫を店長ということにしとけば、なんかあった時に「いや、ウチの店主は猫で、僕は雇われなんでわかんないッス」と責任逃れが出来るかも。シメシメ。もう名前もそのまんま「店長」でいいや。
開業当時は自宅でネット専門だったので一緒に働いて(?)いたのですが、今では実店舗があるために、店長は本社(自宅)で、社員である私は南森町の支店(店舗)で働くというスタイルで、駒鳥文庫は日々営業しているのです。そう言った経緯で「店長」にされてしまったのかなんなのか、どうも妻にはデレデレなんですが、私には一向に懐く気配がない。たまに自宅にいてもお互い我関せず。おやつが欲しい時だけにゃにゃーっと泣き叫んで呼ばれるものの、お腹が満たされると、プイッとどこかに行ってしまいます。
この気まぐれさが猫のいいところであり、個人的に好きなところではあるのですが。
前置きが長くなってしまいましたが、空前の猫ブームと言われている昨今。本日は「猫」が主人公の映画を紹介したいと思います。
ハリーとトント(1974)
監督:ポール・マザースキー
出演者:アート・カーニー
エレン・バースティン
ジェラルディン・フィッツジェラルド他
上映時間:115分
愛猫のトントとマンハッタンのアパートに暮らす老紳士のハリー。息子たちもすでに手を離れ、質素ながらも悠々自適に暮らしていた。そんなある日長年慣れ親しんだアパートが立ち退きに会い、愛猫とともに新しい「住み家」を探すために旅に出る羽目になるのだが……というストーリーの、1970年代のアメリカン・ニュー・シネマの匂いがする、老人と猫のロードムービーです。
猫好きが薦める猫ムービー、さぞや可愛らしい猫たちがたくさん出てきて大活躍すると思いきやさにあらん。この映画、基本的にハリーが息子たちの家を転々とするのですが、その間トントはただ連れて歩くだけ。むしろトントのせいでバスを下ろされたり飛行機に乗れなかったりと、基本邪魔にしかなりません。事件を解決することもなく、夏への扉を探すこともホルモン焼き屋で居候することもありません。ただ、一緒にいるだけ。途中ハリーはヒッピーの女の子に出会ったり、初恋の人に会いに行ったり、留置場で一緒になったネイティブ・アメリカンに治療を施してもらったりするのですが、その間ひたすら、空気。
でもね、それがいいんです。だって猫は何の対価も払わずとも自由なんです。気まぐれなんです。相棒が冒険しようが何しようが、I’m a cat. 吾輩は猫である。その自由さって、実はあんまり猫ムービーにはないんですよね。媚びない。群れない。ハリーとトント。二人でいるけどずっとひとり。でも、二人はきっと一本の固い絆で結ばれ続けている。この関係性がすごく、すごく素敵なんですよ。まるで私と店長のような(笑)。
映画のラスト、ここにきてトントはとんでもない存在感を示してしまうのですが、それは映画を見てのお楽しみ(あまり楽しくないかもですが)。
そんなこんなで駒鳥文庫、今日も店長とともに「古本屋」という名のロードムービーを繰り広げているのでした。